
毛布アート・江頭誠をつくる6センス
第3弾は、毛布アーティストの江頭 誠さん。「GUCCI」のショートムービー、“Kaguya by Gucci”で美術を任されたことがきっかけとなり、国内外から注目を集めている彼は、不要になった毛布や日用品に光を当てることで、人々が考える“無価値”について問う。なぜ彼は、誰もが懐かしさを覚える花柄毛布を、作品づくりのモチーフとして選んだのか?創作活動にかける情熱の源泉を探る。
1. “ダサい”のひと言が毛布アートを生み出した
「美大の彫刻科で学んでいた学生時代、1人暮らしをしていた自宅に遊びにきていた友人に、使っていた花柄の毛布のことを“ダサい”と言われたんです。母親からもらった大切な毛布でしたし、毛布と言えばコレ!っていう認識だったのでかなりショックを受けました。自分としてはそれなりにファッションにも気を遣っていたので、余計にモヤモヤしてしまって……(笑)。その事件があってから、卒業制作は絶対毛布で作りたいと考えるようになりました」

2. キャッチーな素材×毛布の“温もり”が放つ唯一無二の存在感
「作品に毛布を使うようになってからは、花柄に愛着が湧き、生花も買うようになりました。生活の中に花があるだけで心が豊かになるような気がするし、パワーがもらえる。花柄という素材自体が持つキャッチーさやパワーも、作品の強みになっていると思います。それから、毛布ってどことなく生き物のように感じることもあって。使っていた人の温もりとか匂いが残っているので、基本的には洗わずにそのまま使っています」

3. 作品のネタ探しはリサイクルショップで
「日本髪のカツラや木彫りの新巻鮭など、作品のモチーフは本当にさまざまです。作品のネタ探しでもあるリサイクルショップ巡りは、もはや僕の生活の一部になっています。でも、ショーケースにきちんとディスプレイされているような高価な商品ではなく、『誰がこんなモノを買うんだろう』という、普通の人にとっては無価値に思えるようなモノに、いつも惹かれてしまうんです」

4. モノに残る人の温もりが愛着に
「リサイクル品には一期一会みたいなところがあるので、変なモノを見つけてはついつい買ってしまっていて。たとえば、“ケンタロウ”とか名前が書いてある昔のおもちゃやゲームカセットなど、前の所有者のストーリーが染みついているモノに魅力を感じますね。作品にしようと思ってアトリエに保管しているモノが結構あるのですが、つい愛着が湧いてしまって、作品にすることを躊躇してしまうこともありますね」

5. “ダサい”は時代や場所、環境次第で生まれ変わる
「花柄の毛布には、日本独自の捻れた西洋への憧れや屈折したノスタルジーがありますよね。日本レトロが海外で面白がられて、その視点を日本人が真似して取り入れる。そんな風に一周回ったことで、それまでダサいとされていたものが面白いと感じることがあると思っていて。たとえ同じ物を見たとしても、時間や場所、環境が違えば捉え方や感じ方も違ってくるから。きっと、花柄の毛布が僕の部屋にあったからダサいと思われただけで、ギャラリーに展示されていたらまた別の感情が生まれると思うんです

6. 憧れと親近感を抱いた、GUCCIのミケーレのセンス
「竹取物語を題材にしたグッチの映像作品“Kaguya by Gucci”に、僕の作品を選んでもらいました。実は、それ以前の2021年の展示会で、当時のクリエイティブディレクターのアレッサンドロ・ミケーレの作品に、“うわぁ、やられたぁ”という鮮烈な印象を受けていたんです。ガラス張りの部屋に日本製(と思われる)鳩時計がびっしりと並んでいる作品を見たとき、日本のレトロをミケーレの視点で捉え直すとこう見えるのかと。そういう彼の才能を羨む気持ちも正直ありますが、同時にミケーレも絶対日本のリサイクルショップが好きだと、感じました。いつか彼と一緒にリサイクルショップ巡りができる日が来るといいですね」

(撮影:石井文仁、取材・執筆:川瀬拓郎、コーディネーション:HAL.カトー)
再編集:都恋堂