
コラージュアート・河村康輔を紐解く6センス
第1弾は、東京のストリートから生まれたコラージュアーティスト、河村康輔さん。古くから使われてきたコラージュの手法を、シュレッダーを用いた独自のアプローチで進化させた彼には、大手ブランドのアートディレクターを担う一面も。その数奇な変遷を辿っていく。
1. じいちゃんの30万円が、クリエイティブ界への扉を開いた
「専門学校の友達のオシャレな部屋に置いてあったのが、マック。アップルは存在すら知らなかったのですが、『これはモテる!』とすごく憧れたんですよね(笑)。じいちゃんに『学校でパソコンを使わなきゃいけなくなった』とウソをついて、30万円を振り込んでもらいました。手に入れてからは1日16時間くらいマックと睨めっこ。フォトショップの機能を片端から試しながら、グラフィックや写真のコラージュをマックでやるようになったんです。僕のクリエイティブライフはここから始まりました」

2. アナログ転向のきっかけとなった“サンフランシスコ行き”
「2008年ごろにサンフランシスコに行ったとき、尊敬していたアーティストとコラージュ作品をつくる機会に恵まれました。てっきり素材がデータで送られてくると思いきや、届いたのは段ボールに入った紙の素材。最初は困惑したけど、実際にやってみたら瞬発力でものを創る感覚も気持ちよくて、その後5、6年はアナログな手法を取りました」

3. 最大の転機は、漫画家の巨匠・大友克洋さんとの出会い
「『アキラ』や『スチームボーイ』などを手掛けられた漫画家、大友克洋さんが作品を気に入ってくださって。2012年の大友さんの個展で、僕の作品を展示してもらえたんです。これが、コラージュアーティストとして、多くの人に僕の存在を知っていただくきっかけになりました」

4. 絶体絶命のピンチからシュレッダー作品が誕生
「友人が働いていた会社から、自分の作品集を出させてもらえることになったんです。でもなかなか作品が足りず……。入稿前日に、シュレッダーで砂のように細かくした紙を使った作品を思いついたのですが、翌日シュレッダーから出てきたのはタテに裁断された紙(笑)。半ば絶望しながら、段ボールに裁断された紙を貼りつけてみたら、それが想像以上にかっこよくて。周りの人からも好評で、シュレッダーを使った作品に手応えを感じました」

5. 作品を“アート”へと昇華させた、ミニマリズムへの憧憬
「シュレッダーを使い始めてしばらくすると、絵画が持つミニマリズムに憧れを抱くようになりました。絵画であれば、白いキャンバスに黒い点を置くだけでも作品になりますが、コラージュの場合、元ネタをいくつも用意する必要があります。そこで、同じ元ネタを複数コピーして一枚の作品にする、という手法であればコラージュでもミニマルな手法に近づけるのではないかと思ったんです。現在の僕の表現はこうして、確立されました」

6. マスとアングラの行き来を、誰よりも楽しむ
「どちらかというとアンダーグラウンドな雰囲気を纏った作品が多かった僕が、世界的な企業であるユニクロのUTのクリエイティブディレクターに選ばれるとは思ってもいませんでした。周りの反応もそうでしたね。でも、マスとアングラって超セパレートもしているんですけど、僕の中では地続きでもあるんです。左脳と右脳を使っている感覚ですね。マスに向けたクリエイティブだからこそできることもありますし、両方の脳を支える環境を誰よりも楽しんでいます」

(撮影:高木康行、取材・執筆・コーディネーション:武井幸久)
再編集:都恋堂