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伊藤主税映画プロデューサー・伊藤主税が考える想生力 by 伊藤主税
2025.04.18

映画プロデューサー・伊藤主税が考える想生力-vol.2〜人・物・地に根付く営みと文化〜

地域と企業が連携する新たなステージへ。
「ミラーライアーフィルムズ秋田」

私は今まで愛知、鳥取、大分、京都、北海道など10地域以上の地域で映画撮影をしてきました。何度もトライアンドエラーを繰り返しながら、行政だけで映画を制作しても民間の方が関わりづらく、民間の方だけでやっても市が関わりづらいことに課題意識を持ち、官民一体の実行委員会を組成するようになりました。映画の制作会社が地域で撮ることは多いのですが、私たちの場合は実行委員会をちゃんと組成して人を残して繋がりを継続していく作り方をしているのがポイントです。

今回ご紹介するミラーライアーフィルムズプロジェクトは「だれでも映画が撮れる時代」をコンセプトに、俳優の山田孝之さんと阿部進之介さんと一緒に立ち上げた、映画制作の多くの魅力を伝えていく短編映画制作プロジェクトです。シーズン1〜4(2021年〜2022年)では36本の短編映画を作りました。一作品ごとにポスターを作り、柴咲コウさん、齊藤工さん、志尊淳さん、水川あさみさんなどが監督を務めた作品もあります。併せて一般公募もしまして、まだ見ぬ未来の才能とこの有名な方々と一緒にメジャー、インディーズ関係なく上映しています。
現在取り組んでいるシーズン5〜8ではシーズンごとに5作品ずつショートフィルムを集めて上映をしています。様々な地域で企画立案から脚本開発、ロケハンなどを含めて、地域一体となり施策しているというところが特徴です。

秋田市と組んだシーズン5・6(2023年〜2024年)では「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」を活用し、地域と企業と連携した映画制作を行う新たなステージに進みました。
秋田市は、人口減少が最も進んでいる都道府県、秋田県の県庁所在地の一つです。人口減少問題などの地域課題を抱えており、地方に根強く残っている「田舎には何もない、都会に出ないと夢がかなえられない」などの大人の根強いネガティブな意見も残っています。そんな中、秋田市には6つの大学があるのですが、若い学生やクリエイターが地方でも挑戦ができるプロジェクトをやりたいと、秋田市の職員の方からご相談をいただいたことをきっかけに、本企画を進めてきました。

シーズン5では竹中直人さん、漫画家の大橋裕之さん、シーズン6では小栗旬さん、浅野忠信さんといった著名な方と地域の学生が制作補助という形で参加したり、その経験を基に自分たちで映画を作ったりする活動を行いました。学生が参加した映画ワークショップでは2本の短編映画を制作しました。これら全ての作品で学生や市民の皆様にご協力いただいたのですが、その姿を映したドキュメンタリーを制作し、大切な一瞬の数々を映像としてその土地に残すことも重要視しています。

そして、学生や地元クリエイターのアウトクロップを中心とする官民一体の実行委員会を組成していきました。大学や地元企業の方々に参加してもらいながら制作支援部会、食糧部会、産業開発部会、プロモーション部会と分かれ、それぞれどこの部署に入りたいとか、何を学びたいとかアンケートをしながら配置されていて、大人が管理をしていく形になっています。秋田市にはクリエイティブに関わっている大学が多かったので、地域で撮った短編映画のポスターデザインを学生に任せて、世に出す体験ができました。グッズに関してもデザインを学生たちと話して合って決めていくことができました。

今回の成果として大きかったのは、「企業版ふるさと納税」を活用することで、吉野石膏株式会社様と株式会社NTTドコモ様など企業からの寄附を地域資源の活用や新たな文化創出に結びつけることが可能となったことです。実行委員会にも寄附企業が参加されてテクノロジーや技術、働く上でのノウハウやアイディアを実行委員会に提供していただいたことは非常に大きなことでした。ドコモ様には実行委員会のミーティングで秋田支店を利用させていただいたり、一緒にグッズやイベントのアイディアを出し合ったり、スマホを使って撮影や宣伝、ドコモショップでグッズ販売をさせていただきました。

昨今の日本では、各映画関連企業が出資をしあう製作委員会方式で映画が作られることが多く、出資企業以外の方々が作品にかけてきた時間や努力に見合った収益を受け取りにくい状況にあります。今回は自治体への企業版ふるさと納税を原資として制作するもので、各所への収益分配を計画する事が出来ます。現状では、地域の実行委員会に20%、監督を含めたクリエイター・俳優に20%収益分配することを公表しており、その収益金でそれぞれが新たなチャレンジが出来るサステナブルな仕組みを目指しています。
一番大事なのは、実行委員会に入っている若いクリエイターが収益金を使ってまた映画祭を開催することや、新しい作品の制作などに繋がることです。俳優や監督たちは、分配を受け取ることによって自分たちが使ってきた対価を目の前のギャランティだけではなく、権利というものを取得できるため、それにチャレンジできたのが本当に一番大きかったなと思っています。

企業の皆様のご理解とご支援があり、単なる映画制作にとどまらず、地域との深いつながりを築くことができました。今後も地域創生と文化発信をテーマに、さらなるプロジェクトを展開してまいります。

▲SSFF&ASIA 2024「企業版ふるさと納税を活用した地方創生映画の製作とPR」登壇時
左から別所哲也(SSFF&ASIA代表)、横山美鈴(秋田市 企画財政部人口減少・移住定住対策課 主席主査)、松本トラヴィス(株式会社アウトクロップ 取締役 / ディレクター)、栗原エミル(株式会社アウトクロップ 代表取締役 / プロデューサー)、平田啓介(株式会社NTTドコモ 東北支社スマートライフ部長)、伊藤主税(株式会社and pictures 代表取締役)

PROFILE
伊藤 主税Chikara Ito
映画プロデューサー。1978年愛知県豊橋市生まれ、2013年映画製作会社「and pictures」を設立。映画製作をきっかけとした地域活性に取組む。主なプロデュース作品に『古都』『栞』『青の帰り道』『デイアンドナイト』『Daughters』『ゾッキ』『裏ゾッキ』『DIVOC-12』『MIRRORLIAR FILMS』『∞ゾッキ シリーズ』『その声のあなたへ』『Winny』『唄う六人の女』『マンガ家、堀マモル』。現在公開中の上田慎一郎監督・内野聖陽主演『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(2024年11月22日劇場公開)、待機作に高杉真宙・柄本時生W主演 HBCドラマ『三笠のキングと、あと数人』(2025年春放送)。

「映画プロデューサー・伊藤主税が考える想生力」について
竹野内豊さんと山田孝之さんがW主演を務める『唄う六人の女』をはじめ、数々の映像作品を手掛ける映画プロデューサー伊藤主税。映像制作の現場を通して、町や人、ものと触れ合い、地方を創生するヒントを“想生”する伊藤の試行錯誤と挑戦を綴った連載エッセイ。

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