
TAMILAB・田宮興をつくる6センス
第5弾は、スケーターにとってはまさに消耗品だというスケートボードのデッキを、“靴ベラ”に蘇らせるTAMILAB(タミラボ)の田宮興さん。その評価はスケートカルチャーに興味を持っている人やインテリアに興味がある人を中心に日に日に高まり、現在は「ハリウッドランチマーケット」や「ジャーナルスタンダードファ二チャー」などのセレクトショップやインテリアショップにも並ぶ。TAMILABのアトリエを訪ね、“好き”の延長にあるものづくりについて伺った。
1. 最初に生まれたのは「しゃもじ」だった
「でも僕自身は、ずっとスケートボードをやっていましたが、使ったデッキには思い入れもあったので加工しようと思ったことはなかったんです。たまたまファクトリーで知り合ったクリエイターの方にデッキを多めに譲ってもらったことをきっかけに、スケートボードで何か作ってみようと思い立ち、最初はしゃもじを作りました。なかなか良い感じに出来上がったのですが、足で踏まれてきたものだし、どんな合板が使われているかも分からない。コーティングしても、やっぱり衛生的にアウトだなと自分で却下しました(笑)。そこから考え直して思いついたのが靴ベラです」

2. 廃デッキをめぐる、スケートショップとのWin-Winな関係性
「TAMILABでは、都内のスケートショップ数店から廃スケートデッキを定期的に仕入れています。基本的にスケーターは、新しいデッキを購入し、トラックやウィールを付け替えたら、その板はショップに置いていくことが多いんです。一方でスケートデッキを引き取ったスケートショップ側は、スケートデッキを処分するのに『事業ゴミ』として費用がかかってしまう。こうした状況もあって、譲ってくれるようになりました」

3. 形状、強度、しなりの良さを活かすのが“靴ベラ”だった
「デッキを使ったものづくりが上手くいったのは、芸術系の大学での学びが大きいと感じています。ものづくりを構想する際、大学では常に質問攻めに遭うんです。“なぜその素材を使うのか”、“なぜその形にするのか”という問いに対して、明確な答えを持っていなければいけない。問いを重ねながらたどり着いたのが、カラフルな合板でした。機能的にもスケートデッキの要素が活きるのは靴ベラだなと思い試作を繰り返していると、その形状、強度、しなりの良さ、すべてが相性良く、見事にハマった感じがしました。人に見せても高い評価を得られたので、独立を決めました」

4. 試行錯誤の末にたどり着いた、TAMILABらしさ
「今では靴ベラを月に100本近く生産しています。1枚のスケートデッキから靴ベラに加工できるのはだいたい5本。デッキを縦にカットし、そこから1本1本靴ベラの形状に仕上げていくのは、実はかなり難しくて。それに、個体差があって機械を使った加工ができないので、すべてハンドメイドです。靴ベラ1本あたり、2時間はかかっていますね。これまでに20回くらいブラッシュアップもして、仮に真似をされたとしても僕には勝てないぞと思えるくらいのレベルまで到達できたと思います」

5. 靴ベラになっても元のグラフィックに息をさせたい
「廃スケートデッキを靴ベラに加工する時、もともとのグラフィックを上手に活かすことを大切にしています。スケートデッキのグラフィックは、昔のシンプルなものから比べると、かなり進化しているように感じていて。よりアート的になっているものも多いし、凝ったプリントも増えているんです。このグラフィックの面白さは廃材のスケートデッキを使う理由のひとつになると思っているので、どの部分を活かすかは僕が考えて職人さんにも指示するようにしています」

6. 価値があるものを蘇らせることが、ただただ好き
「処分される運命のスケートデッキを活用してプロダクトを作っていますが、『サステナビリティ』を第一に考えているかというとそうではありません。もちろん今のSDGs的な恩恵を受けている部分もあるのですが、それよりもスケートデッキの“良いところに活かせることができた”という快感の方が大きいと思います。僕は昔バイクのレストアも趣味だったのですが、動かなくて鉄くず同然だったものが動き出したり、価値があるはずなのに埋もれていたものを蘇らせたりするのが好きなんだと思います」

(撮影:高橋絵里奈、取材・執筆:武井幸久、コーディネーション:HAL.カトー)
再編集:都恋堂