
福永浩平のディテールに宿る物語り vol.1〜器の世界〜
音楽は録音するマイクやアンプ、音色の仕上げ方、鳴ってる帯域のEQ、その細部の違いで印象は全然違うものになります。
そこに製作者の物語りが宿るのです。
このコラムでは私が好きな民芸品や工芸品について触れていこうと思います。
読者の皆さんに新たな視点が生まれたらとてもうれしいです。
私は趣味も好きな物もめちゃくちゃ多いです。(照)
その内の一つが器の収集です。
昔から器が好きで、10代の頃に鹿児島から上京してお金がなかった頃も背伸びして小さな白磁器を買ったりしてました。
器は生きるために必要なものだと私は思います。
しかしそれはさまざまな質感や形や模様にデザインされています。
私たちはその違いに惹かれ、器を手に取り、どんな料理を盛るべきか頭を悩ませるのです。
音楽は生きるのに必要ないものとよく表現されますが、装飾やデザインもそれに近いと私は思います。
同じ料理だとしてもプラスチックのお皿と陶器のお皿だと感じ方が違うようにデザインは重要です。
自分の琴線に触れるデザインに囲まれることで得られる幸せは確実にあると私は思います。
私が器選びで大事にしてる部分はまず質感です。
磁器のさらさらとしたずっと触っていたい質感も大好きだし、土の荒々しさを感じる力強い器も大好きです。
色はなるべく自然界に存在するものが好みです。
器は料理が乗った時に完成するものだと言い切りたい気持ちもありますが飾るだけでも美しいと思います。
数年前のある日たまたま立ち寄ったセレクトショップで出会ったのが地元・鹿児島の陶器ブランド「ONE KILN」のお皿でした。 さらさらとした質感で黒いフォルムでありながらまだら状に油のような光沢を放つそのお皿に私の琴線は大きく揺さぶられました。
説明文には窯元は私の地元の鹿児島で釉薬に桜島の火山灰を使用してると書いてあり、私はさらに胸を撃ち抜かれました。
ここでお伝えしたいのは鹿児島県民は皆さんが思ってるより桜島のことが大好きということです。
購入して使っていくうちに気づいたことは、他の器より使用頻度が高いことです。
どんな料理でも乗せたくなる器というのは意外とないものです。
それから数年経ち、このRE/SAUCE Projectで「ONE KILN」を主宰する城戸さんと対談の機会を設けて頂きました。
いくつか質問をしていく中で、なぜ火山灰を釉薬(ゆうやく)に混ぜたのか、その物語を聞くことができました。
城戸さんが学んだ白磁の型焼きの技法は火山灰の降る鹿児島には適していなかったが故に、逆転の発想で釉薬に火山灰を混ぜ、黒いフォルムのAshシリーズが完成したそうです。
私はこの細部に宿る物語を聞くことができて、とても感動しました。
他にも面白い話を伺えたので、対談記事も合わせてぜひ読んでみてください。
音楽やデザインは生きるために必要かと問われれば、そうではない。
しかし生きるということを表現するのが音楽でありデザインなんだと、私は思います。